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偶像は人間の夢を見るか-聖川真斗に対する雑感

前から口にしている通りいくつかの地下アイドルのオタクをしているのだが、基本的に彼ら/彼女らは非常に刹那的な存在である、と思う。例えば恋愛禁止であったり、過酷なスケジュールであったり、アイドルはステージ上の輝きと多くのものを引き換えにしている。普通に生きていれば誰かと恋をしたり、友達と過ごしたり、多くの優しい世界が待っていて、だけどそれをかなぐり捨ててステージ上の輝きに賭けた人たちーーーーーそれに耐えきれなくなったアイドルが悲しい顔でステージを降りていくのを何度も目にしてきた。オタクはいつだって「大切なお知らせ」(大抵の場合いつものハイテンションぶりはなりを潜め、句読点のみで構成された無味乾燥な文章がインターネットに流れる)に怯え、あるいは見ないふりをして一時の歓喜に沸いている。古くから滅びゆくもの、消え去るものが人は好きだ。だからこそアイドルのように「いつかどこかで別れを告げるもの」は、人々の愛を一身に受けるのかもしれない。

つまり何が言いたいのかというと、アイドルは遅かれ早かれ必ず消えてしまう、ということだ。それが物理的な死なのか、アイドルとしての死なのかはわからない。だがその未来を見ているアイドルは、それと引き換えに恐ろしいくらいの輝きを得る。その輝きが人々を魅了する。ぼくはそう思ってきた。つい先週まで…「つい先週まで」というのは、こんなツイートを目にしたからである。

 

 

聖川真斗。アニメ・ゲームなどのコンテンツである「うたの☆プリンスさまっ♪」の登場人物であり、劇中で活躍するアイドルグループ「ST☆RISH」のメンバーである。彼のディテールやこのアカウントの説明はぼくよりも遥かに詳しい諸氏に譲るとして、このツイートである。ぼくにとってはあまりに衝撃的な内容で、あまりにも美しく、あまりにも強い言葉だった。

 

…だってそうでしょう?アイドルはいずれいなくなっちゃうじゃないか。誰のもんにもなれないじゃないか。例え二次元のアイドルだからってこんなこと言うの?嘘でしょ?うたプリ自体には前から興味を持っていたし、実際アニソンDJをしている身として、ある程度彼らの楽曲も持っている。ぼくが知り得る情報は、それが全てだ。彼らのディテールはよく知らない。だがこのツイート群1つで、ぼくははっきり言って完璧にまいってしまった。降参だ。こんなの反則だ。あまりにも衝撃的であった。ただでさえ永遠なんてものは世の中には存在せず、日常の中で誰かのためだけに存在している人などいないと言うのに、よりにもよってそれをアイドルに言わせるのか、という衝撃である。

 

ーーーーー地下アイドルオタクが「いつまでも いると思うな 推しと親」と自嘲気味に語ることがある。「大切なお知らせ」と共に、忽然と消えるアイドルたちは少なくない。先に述べた通り、彼ら/彼女らと「永遠」という言葉は、おそらく世界で一番両立しえない言葉の1つであろう。そしてそれは、エンターテイメントと呼ばれるものに共通の運命と言ってもいいかもしれない。形ある偶像は壊れる。ビートルズはジョンとポールのすれ違いから消えていったし、クイーンはフレディという偉大なフロントマンを失った。永遠に自分のことを歌ってくれるはずだった人々は、すべからくその歴史に幕を下ろしてきた。

 

しかし、聖川真斗は「永遠を約束した」。

 

誤解を恐れずに言えば、彼は虚像である。キャラクターである。彼の発言は、それを作る誰かの存在なしには生まれ得ない。その聖川真斗に永遠を約束させ、ファンはその言葉に救われるーーーーーこれがアイドルでなくて、なんなのだろう。断言してもいい、アイドルという偶像となった、虚像の存在である聖川真斗は、この時…と言うより、この発言があったもっと前からアイドルであったのだ。虚像の偶像は、人々の中に、あるいはスクリーンの中に、あるいは画面の中に確かな存在を得た。これまで無数にプリンセス諸氏が感じたであろうその瞬間が、ぼくの目の前に明らかな質量をもって現れた。はっきりと言おう。ぼくは、聖川真斗に心を鷲掴みにされたのだ。

 

この文章を書いているぼくは、これまで放映されてきた「うたの☆プリンスさまっ♪」のアニメシリーズを視聴すること、そして現在上映されている「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」を見ることを決めている。今更ながら、十分すぎるほどにアイドルであった聖川真斗、そしてST☆RISHの軌跡を追いかけようと思っている。彼と彼らが辿った歴史を、少しでも追体験したい。それは、うたプリの歴史を作ってきた聖川真斗とST☆RISH、そしてそれに救われてきた多くのプリンセス諸氏の体験の上澄みでしかないかもしれない。だが、今特大の衝撃を受けたぼくは、そこに至るまでの物語を知らずにはいられない。1人のアイドルオタクとして、それはおそらく、知っておくべき物語なのだから。